i逆 探 知


      3 逆 探 知

  私が勤務していた当時の電話局でのできごとです。

・・誘拐犯の逆探知に成功・・

   当時は、まだ電電公社と言い、中曽根元総理大臣の民活 路線が起こる前の、半官半民状態の会社での、出来事です。

 電気通信と言う仕事を取り扱う作業員は常日頃から通信の秘密を守る事を肝に銘じて仕事をしていました。
 入社以来、電気通信機械設備の保守と運用をしていたわけですが、ある時、辞令で交換機の施設設計を担当する設計者として、
 古くなった設備の維持と取り替え、および新しい交換設備の施設設計と積算などを3年間つとめ、
 東京港区管内の電話局機械課に転勤する事になりました。

   話を本題に戻して。逆探知の依頼は直接警察から依頼されますが、裁判所の許可がない限り逆探知は出来ません
 文書の照会も同様で、弁護士の場合は弁護士本人の照会では受付けず、弁護士会の照会がなければ、
 受付けません。今までに何度か、逆探知の依頼があり、入社当初はA形自動交換機で、当時はXB式自動交換機でした。
 自分の受け持ち交換機内ならば、
 どうにか発信元を探索出来るか出来ないかどうか半々です。その位ル−ト追いは難しく、電話局が何局にもまたがる
 場合いは、その都度電話局同士で連絡用電話によって打ち合わせ、本当に使用しているか、時にはモニタ−などして通信経路を逆に追っていく、
 時間のかかる作業です。従って、犯人との通話時間をしき伸ばさせることが警察の最大努力する事です。某電話局に転勤して半年くらい経ったある日、
 局長が機械室の事務室にきて、御殿山のマンションで子供が誘拐され、逆探知の依頼が警察から依頼があったので、機械課の皆に苦労をかけるが
 宜しく頼む、と言われました。ところで、以前の職場、機械建設設計課で、RCIE9D化工事が都内の電話局すべてで終了していた事が分っていたので、
 局長に話しをむけました。 「 転勤前の設計の現場で、RCIE9D化工事が都内の電話局すべてで終了しています。その機能は犯人がダイヤルを回し
 終わるとほぼ同時に、と言うことは、被害者宅の電話機のベルが鳴ると同時に警報が、発信した電話局と、着信した電話局の両方に出ます、
 方法は各交換機に被害者宅の電話番号をセットするだけで、発信元電話番号が判明します。」 
 どうでしょう。確かにこの機械を利用するのは初めてです。
 局長は少し考えていましたが、
   さすが人物です、「 やろう 」 の一言。事務室をでていきました。
 機械課職員は早速準備にはいりました。
   当局会議室に捜査員が詰め、警察の捜査員も24時間、機械課職員も2名交代で24時間体制です。
 交代での作業とはいえ、24時間で1週間、大変な事を提案してしまったと思っていました。いよいよ逆探が開始されました。
 なにしろ電話機のベルが鳴るのと同時に 交換機の警報が鳴り、発信元電話番号が判るのです、交換機の警報が鳴ってから、その電話は身内の電話です。
 と、連絡が入ることもありました。その位早く発信元電話番号が判るのです、警察の捜査員も首を傾けるほどです。結果、24件脅迫電話があり、
 24件全ての発信元電話番号が判明しました。たしか、当時の新聞に24件の脅迫電話の発信元がわかったと記事にありま
 したが、捜査の専門家が読めば、これはおかしいと思ったはずです。事件そのものも、事件発生から、1週間目に無事誘拐された子供も親元
 にもどり、私たち機械課職員もやっと解放されたしだいです。警報の件ですが、交換機の警報には、メジャ−(MJ)警報と、マイナ−(MN)警報があります。
 マイナ−(MN)警報は、チン、チンと鳴りますが、メジャ−(MJ)警報は、大きな音で連続してジャ−ンと鳴ります、交換機一台で、4800人が1時間
 同時に話せる能力があり、最繁時にはかなりの騒音がしますが、夜間などは、静かなものです。そこに大きな音で、ジャ−ンと鳴る(MJ)警報です。
 音だけでびっくりします。加えて人命に関わる捜査の仕事、担当した職員の中には、手をブルブル震わせて交換機のトラブルレコ−ダ−
 から打ち出してくる情報紙を切り取るのを目撃もしました。1週間にわたり1秒の休みもなく従事して、職責を全う出来たことは、
 一刻も早くお子さんを見つけて、親御さんに返してあげたい一心であったと思います。そして、捜査に協力した電話局として、警視総監賞を拝領した
 次第です。現在、子供を持つ親になり、誘拐された子供の親の気持ちが分かる様な気がします。最後に、当時、電子交換機もありましたが、
 リレ−(継電器)式のC400形電話交換機でも、かくの如くの、性能がありました。今はデジタルの時代、D70形デジタル電話交換機や、新ノ−ド式
 交換機では、その性能は格段良くなっています。事件性のある脅迫電話などは、絶対にしない、と肝に銘じて頂ければ幸いです。
              筆者   東山春美
 

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